なぜ絵本?

 『私の身に起きたこと:とあるウイグル人女性の証言』は、なぜ絵本なのか? そういう質問を受けることがときどきあります。ウイグル人弾圧に関する本であり、必ずしも児童書ではないのに、なぜ絵本のような装丁になっているのか? それを疑問に思うのはもっともです。

絵本のような装丁にするということは、出版社が決めたことではなくて、著者の意向です。「絵本のようなかたちで作品を出版したいのだけれど、引き受けてくれませんか?」と打診が、清水ともみ先生からあったのです。こういう本を絵本のような装丁で出すというのは、出版業界ではほとんど前例がないだろうと思います。そのせいか、他の出版社にはすべて断られてしまったそうで、最後に僕のところに話がきました。最初は僕も戸惑いましたが、実際に出版してみて、このかたちは正解だったと思っています。

絵本にすることで、多くの情報を詰め込んだり難しい分析を行う本ではなく、感情に強く訴えかける本になったと思います。清水ともみ先生はウイグル人の証言をいくつか漫画に描いていますが、その中からあえてひとつだけを載せたのも、それが感情にもっとも強く訴えるからです。

また、絵本というのは、シェアされやすいことにも気づきました。「薄いからちょっと読んでみよう」という感覚で、そこらへんに置かれた本が、いろんな人に読まれていくのです。分厚い本だったら、なかなかそうはいきません。

『私の身に起きたこと』は、絵本という形態の持つメリットを、子供向けの絵本以上に活かしているような気さえ最近はしています。


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