香港人に希望はあるか
羅冠聡(ネイサン・ロー)著
串山大 訳
本体1600円+税 ISBN978-4-87369-107-7
2023年8月発売 四六版並製 280ページ
【序 親愛なる日本の皆さまへ】
この本を手に取ってくださった皆さんと、文化の壁を越えて繋がり、人としての体験を共有できることを深く感謝しています。私たち香港人の多くにとって、日本は単なる隣国ではなく、第二の故郷のように感じられる場所です。私たちは、日本の美しい風景を大切に想い、日本の料理を楽しみ、日本の豊かな文化に魅了されています。個人的には、歴史ある京都に深い愛着があります。京都の寺院の境内を歩いたとき、足元の小石の鳴る音が静寂の中に反響するのを聞いた思い出は、私が最も大切にしている記憶の一つです。こうした時間こそ、権威主義政権の下で生きる活動家にとって必要な、心安らぐ貴重な避難所となるのです。
この本に書かれている旅は、二〇一八年八月一八日の投稿記事から始まります。私はかつて、雨傘運動で平和的な抗議をしたがために「違法集会を煽動した」として起訴され、二〇名の他の囚人と共に雑居房に三カ月近く収容されました。最近の刑期と比べれば、これはたいしたものではありません。しかし私にとっては獄中生活を味わうのに充分な長さでした。二〇一七年一〇月に釈放された後、私は大学の卒業を目指し、そして傷ついた心を癒すために家族と共に京都を旅しました。
活力と集中力を取り戻した私は、再び香港の政治情勢の渦中に引き込まれていきます。雨傘運動の敗北によるダメージが残り、市民の声が小さく聞こえなくなっていく世界において、私たちは進むべき方向性を見出すのに苦労していました。新しいナラティブと新しい目標設定に向けた探求を始め、社会運動への一般市民の参加を促す希望の火をつけようとしていました。
本書は、激動の時代に私が執筆した一連の記事をまとめたものです。一般的な旅行記や、香港のレストランや観光スポットのガイドブックとは異なり、本書が紹介しているのは、私の目を通して見た香港の変遷──権威主義的な政策がいかにして私たちの生活の基盤を作り変えてきたのかということです。
この旅の道のりは、香港の自由が揺らぐことによって敷かれたもので、私は香港からロンドンへ連れて行かれることになります。前著『フリーダム』では、私の個人的な経験を掘り下げましたが、本書では私の政治的な考えと、香港の変容について書いています。合わせて読んでいただければ、異なるレンズを通して香港を全体的に見ることができるようになるでしょう。
本書を読むことを通して私と共に旅をしようと思ってくださった皆さん一人ひとりに対する感謝の気持ちは、言葉では表現しきれないほどです。香港はもはや数年前のようなホットな話題ではないかもしれませんが、それにもかかわらず皆さんが関心を持ち続けてくださることは、私にとってだけでなく、香港の人びとにとって計り知れないほどの価値があります。それは希望の光であり、私たちの物語がまだ共鳴を生むということ、自由を求める私たちの闘いが忘れ去られたわけではないということを伝えてくれます。
「自由のために闘おう! 香港と共に立ち上がろう!」このスローガンは、私たち全員の願いなのです。
二〇二三年六月 深い感謝を込めて
【著者紹介】
羅冠聡(ネイサン・ロー)
【目次】
・序 親愛なる日本の皆さまへ
・第一部 亡命まで──香港を愛しすぎることは罪なのか
・第一部 亡命まで──香港を愛しすぎることは罪なのか
・第二部 国安法の時代のはじまり──低迷と希望
・第三部 民主主義と自由のゆくえ──弱くても屈しない
・二〇二一香港憲章
・訳者あとがき