村上春樹のせいで
どこまでも自分のスタイルで生きていくこと
イム・キョンソン 著
渡辺奈緒子 訳
本体1800円+税 ISBN978-4-87369-103-9
2020年11月発売 四六版並製 248ページ
【出版社より】
この本は読者にはすごく好評だったのですが、出版社の宣伝力不足で部数がいまいち伸びなくて著者や訳者に対して申し訳なく思っています。宣伝のやり方がよく分かっていなかったのです(今もよく分かっていません)。どんな感じの反響があったか、いくつかTwitterから拾い上げてみます。
『村上春樹のせいで』があまりにもよすぎて、この作者の未訳の本全てが読みたくなり、今から韓国語を始めようかと真剣に考える。
— 山藤奈穂子 | 臨床心理士&公認心理師 | カウンセリングルームやまふじ | (@NaokoYamafuji) January 17, 2021
春樹が主人公の小説のよう。カーヴァーのところではちょっと泣いた。
村上春樹ファンにとっては、本棚のいい場所にある春樹本のとなりに置いて、時々読み返したくなる本 https://t.co/XJ9AKTPD5a
イムキョンソンさんの村上春樹のせいで読み終わった
— miakilj3156 (@miakilj3156) October 31, 2020
すらすら読めたから翻訳もすごく上手いんだろうな
村上春樹さんにあまり興味なかったけどこの本読んで偏見が消えた気がする
面白かった
青いカバさんで買った「村上春樹のせいで」ひじょーに面白い。途中だけどジャズ喫茶店主としてのQ&Aがばかみたいに楽しい
— あんず (@pjcdm) November 7, 2020
イム・キョンソン
— しまぷんぷん (@PerfumePunPun) November 29, 2020
『村上春樹のせいで』
著者の村上春樹への愛が詰まったエッセイ。
これまで村上春樹が書いてきたこと、語ってきたことを紹介しながら、村上春樹の人生を丁寧に辿っていく。
また村上春樹を読みたくなった。
やれやれ。
本当に村上春樹のせいだ。#読了 pic.twitter.com/gpPg8Mv83n
村上春樹のせいで
— パトリック (@PXiGgBvmToYfXU1) December 6, 2020
コラムニスト:イムキョンソンによる、村上春樹の魅力を詰め込んだエッセイ。
原題は、「どこまでも個人的な」。
個人的であること、こそ人間的であると思う。自分自身を見つめる、井戸を深く深く掘っていく。
その先に、他者や世界との結びつきがあるのかもしれない。 pic.twitter.com/WAs76XIsOe
『村上春樹のせいで: どこまでも自分のスタイルで生きていくこと』(季節社)
— ハナソ タマ (@hasa560806) October 24, 2020
渡辺奈緒子さん(@naokoreanroad)のリズム感ある翻訳は、翻訳とは思えない位読みやすくて原書『어디까지나 개인적인』(イム・キョンソン著) に目を通す余裕もないほど、あっという間に読了。原作者の他の著書を読んでみたい。 pic.twitter.com/Me9zyANKTE
『村上春樹のせいで』
— Bookland (@booklan72214770) January 11, 2021
私はあまり村上春樹の作品に興味が持無かったのですが、他者のフィルターを通すと中々面白いなと思いました。特に、美しさや正しさを見出すには、痛みに満ちた現実を潜り抜けなくてはならないという苦痛論は同意できるし、昔話の残酷性の理論に通じているなぁと思います。 pic.twitter.com/KjSDRGTBeH
『村上春樹のせいで』作家になったイムさんによる春樹本を読む。僕も一応小説は全部読んでいるけど、徹底的に彼の書いたものを調べた上で書かれたこの本は、彼へのリスペクトと、同じ作家として彼の内在的論理を浮かび上がらせる暖かい語り口もあって、すごく面白かった。 https://t.co/ZjIGczZdkp
— 竹端寛『家族は他人、じゃあどうする?』7月19日発売 (@takebata) January 5, 2022
『村上春樹のせいで』は入門書にぴったりです。あいだに挟まる著者と日本、村上春樹のエピソードも良き。少し悲しくなったりもしますが、そこの話しをまた別で読みたいと思いました。訳文も素晴らしかったです。
— sat0mi (@sat0mi_h) December 5, 2021
村上春樹の作品好きだから、作家の背景知りたくなった、という人に強く推薦いたします🙌
好意的なコメントは、上に挙げたのがすべてではありません。刊行した後すぐにツイートしてくださったクリエイターの方の投稿が特に印象に残っているのですが、時間がたちすぎたのか検索しても見つけられなかったのが残念です。
実際これはとても面白い本なのです。村上春樹の小説だけでなくエッセイやインタビューに注目して、彼の作家としての生き方について書いている点が特徴です。以下に、著者紹介と、本の冒頭の部分を抜粋して載せておきます。
【著者紹介】
イム・キョンソン
Twitter @slowgoodbye_jpn
Instagram @kyoungsun_lim
【抜粋】
はじめに ── 人と人との望ましいありかた
カフカ少年が十五で家出をしたとしたら、十五の私は村上春樹に出会った。そのころ私は日本のある高校に通っていた。そこはいわゆる在日コリアンのための民族学校で、授業はすべて日本語だけれど、韓国の歴史と言語、そして文化を教えるところだった。幼いころは日本に住んでいて、その後いくつかの国を転々とした私は、日本の高校に転校するにあたってまた一から日本語を学び直さなければならなかった。苦労したけれど、そういう運命なのだろうと思った。
転校した学校は民団系の学校だったが、なかには総連系の子たちも交ざっていた。自転車で通学するときには近くにある朝鮮学校に通うチマ・チョゴリの制服姿の学生たちに遭遇することもあった。お互いを意識しながらも、ただ通り過ぎる関係。怖かったかって? あの場所では韓国と北朝鮮の区分はあまり意味がなかった。ただ私の学校の場合は修学旅行で韓国に行くときに総連系の子たちの入国が認められなくて、一緒に行けなかったことが心残りだという程度のこと。
制服を着て、自転車に乗って、髪にリボンをつけて、三角関数や微分積分と格闘していた一九八七年、生意気な十五歳の高校二年生になった年、私は偶然村上春樹の『ノルウェイの森』を手に取った。真っ赤な表紙のその本を親に隠れて毎晩少しずつ読み進めた。赤裸々なセックスの場面が出てくると恥ずかしくて下っ腹がこそばゆくなったりもした。こうして私は村上春樹の小説に出会った。
それから長い歳月が流れた。その間、私は大学に行って恋をして、大学院で勉強するふりをして、職場で人間と仕事を知り、一人の男に出会って愛を誓い、今は一人の女の子の母親であり、ものを書く作家になっている。その間に起きた無数の出来事も、今ではもう陽炎のようにぼんやりとしている。
それでもはっきりと覚えているのは、その日々の時には悲しく、つらく、嬉しく、息の詰まるようなすべての瞬間を、村上春樹の文章に慰められ、支えられながら生きてきたという事実だ。私はもともとドライな人間で、何かにどっぷりはまったり、すがったり、何かを収集したりすることとはほとんど縁のない人生を送ってきた。どちらかというと心変わりが激しくて、何にでもすぐに飽きてしまうほうなのだ。ただ不思議なことに、村上春樹という作家にだけは今このときまで深く魅了されつづけている。
それはひとえに、彼が長い間たゆまず誠実に小説を書き続けてきてくれたからなのだ。読者を見つめる彼の視線も、いつのときも変わらず温かく、そして淡白だ。
〝三十年書きつづけてきて、三十年前の本がいまも新しい読者の手に取られ、読まれつづけている。そのことがなにより僕の支えになっています。(中略)どんな賞をもらおうが、勲章をもらおうが、そんなものは要するに人為的なものです。ただ上から与えられるものです。自然のものではない。読者が待ってくれているという確かな感触くらい、作家にとって大事なものはない。〟
彼にとって何より意味のあることが自分の書きたいものを書くことだとすれば、彼の読者にとって何より意味のあることは彼の書いたものを待つということだろう。私という人間にとって作家村上春樹がもう少し特別な意味を持っているのは、至らない才能でものを書いて行き詰まったとき、彼の存在が私にまた立ち上がって歩み出す力を与え、「より良い自分になろう」という人間本来の善意を持たせてくれるからなのだ。それは人と人の関係において、とても望ましいことではないかと思う。
この本はこれまでに私が書いてきたどんな本とも文体と調子が違う。この本に込められているものは、本当に大切で意味のあるものを丁寧に扱おうとする謙虚な心に似ているはずだ。そういう意味で、この本を手にとってくれるみなさんは、私のいちばん深い心のなかを垣間見て、理解してくださることと信じている。
この本を通して私はあらためて村上春樹からインスピレーションを受け、私自身の人生を振り返ることになった。彼に心から深く感謝していた私にできたことといえば、彼を目指してこつこつ誠実に本を書くことしかなかった。
なぜ作家村上春樹について書いたのかと誰かに尋ねられたとしたら、私は「ただそうしなければならなかったから、そして、どうしてもそうしたかったから」と答えるだろう。大袈裟に聞こえるかもしれないが、これは私の人生の必然的な手順だったのだ。
* Amazonの評価を見たら4.1になっているので、それほど面白くはなかったと感じた読者もいたようです。高い評価にばかり目が行き過ぎたかもしれません。
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