幸せの定義とか
二つの自由とソクラテス問題
中原邦彦 著
本体3600円+税 ISBN 9784873691084
2026年10月発売 四六版並製 400ページ
■ 現代哲学が忘却してきた「第四の幸福の定義」
幸福とは何か? 現代の分析哲学では「快楽説」「欲望実現説」「客観的リスト説」による三分類が基本的な枠組みとなってきました。しかしこの枠組みにとどまる限り、私たちは「個人の気ままな快楽や欲望の追求」と「外部からの正義や規範の押し付け」という両極端の間で迷走せざるを得ません。
本書は、現代哲学が見落としてきた第四の立場である「幸福の整合説」を提示します。幸福の整合説とは、信念や欲望といった心の要素の間に矛盾がなく、自己自身と調和している状態こそが幸福であるとする考え方です。驚くべきことに、現代哲学を乗り越える鍵となるこの立場が、古代ギリシアのソクラテスの思想であったことを本書は文献学的に解き明かしています。
■ 「二つの自由」と全体主義の罠
本書のすぐれた特徴は、幸福論を政治哲学の根本的問題と接続させている点にあります。
著者は、フロムやバーリンの自由論を踏まえて、他者からの干渉がない「消極的自由」と、あるべき自己を実現する「積極的自由」という二つの自由を区別します。そのうえで、「積極的自由」が幸福の客観的リスト説と結びつくとき、独裁政権による暴政への道が開かれると論じています。幸福の客観的条件を知っているとされる知的エリートが、「服従こそが真の自由である」と強弁する抑圧的システムが生み出されてしまうのです。
これに対して「吟味のない人生は生きるに値しない」と説いたソクラテスは、傲慢な知的エリートによる支配を厳しく批判しつつ、一人ひとりが自発性にもとづいて自分自身との調和を実現していくことを促していました。ソクラテス的な積極的自由は、幸福の整合説と結びついていたのです。
こうしたソクラテスの考えを、弟子のプラトンは充分に理解していなかったと本書は論じます。そのためプラトンは、ソクラテスを裏切って三十人独裁政権のクリティアスの思想へと回帰し、全体主義の祖となったのです。
■ 緻密な史料精査と現代的射程
本書は、ポパー的な反証主義を文献学に応用し、仮説の妥当性を厳しくテストする姿勢を明確に打ち出しています。通説をくつがえす大胆な仮説がいくつも提示されますが、そこには広範な史料によるしっかりとした裏付けがあります。
議論の射程は極めて広く、古代ギリシア思想の研究にとどまらず、技術官僚や人工超知能による統治への批判、相対主義とニヒリズムの克服にまで及びます。現代社会の行き詰まりを突破するための新しい思考の枠組みを提示する野心的な論考です。
■ 自由を重んじるすべての人へ
本書は古代ギリシア哲学と現代政治哲学・倫理学を架橋し、「人生の究極の目的とは何か」「力の湧き上がってくる生き方とはどのようなものか」といった根本的な問いを考え抜き、壮大な議論を展開します。わがままな快楽にも、押し付けがましい正義にも満足することなく、自由にもとづく人間的成長を求めるすべての読者に、強烈な知的刺激を与える一冊となることでしょう。
【目次】
はしがきと凡例序論
- 第1章 幸福を問うこと
- 第2章 幸福の整合説
- 第3章 二つの自由のアポリア
- 第4章 ソクラテス問題
- 第5章 幸福と徳の一致
- 第6章 善と快の峻別
- 第7章 プラトンの裏切り
- 第8章 哲人王と人生の吟味
- 第9章 帝王術のアポリア
- 第10章 三十人政権
- 第11章 独裁者と知の知
- 第12章 思慮深き独裁
- 第13章 第一の封印
- 第14章 第二の封印
- 第15章 第三の封印
- 第16章 無知の知と民主主義
- 第17章 デルポイの神託
- 第18章 論駁と助産術
- 第19章 心の一致
- 第20章 善と快の一致
- 第21章 自制心と哲人統治
- 第22章 知行合一
- 第23章 快楽、徳、懐疑
- 第24章 尺度の技術
- 第25章 相対主義の帰結
- 第26章 カリクレスと権力への意志
- 第27章 ソクラテス対ニヒリスト
- 第28章 徳は教え得るか
- 第29章 光明にかがやくもの
- 第30章 残された課題

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